支店や営業所、工場など複数の市区町村に事業所を構える企業の経理担当者にとって、毎年1月末に迫る償却資産税の申告作業は大きな負担となっています。拠点ごとに申告書の提出先が異なるため、「どの資産をどの市区町村に申告するのか」「免税点150万円の判断はどう行うのか」といった疑問を抱えたまま、作業が進まないケースも少なくありません。
本記事では、複数自治体への償却資産税申告における提出先の決め方と免税点の考え方を整理したうえで、eLTAXの「複数申告書一括作成」機能を使って申告作業を効率化する手順を解説します。
さらに、固定資産管理システムを活用することで、資産の所在地管理から申告用CSVの出力までを一元化し、毎年の申告作業の工数を削減する方法もご紹介します。
目次
複数自治体への償却資産税申告の基本ルール
まず、複数市区町村に事業所や工場を持つ企業が押さえておくべき申告の基本ルールを確認します。
申告先は「資産の所在する市区町村」ごとに分ける
償却資産税(固定資産税の償却資産)の申告先は、賦課期日(毎年1月1日)現在、その資産が所在する市区町村です。地方税法第341条の定義に基づき、事業用の構築物・機械装置・工具器具備品などは、物理的に設置されている場所の市区町村が課税主体となります。
たとえば、本社(東京都千代田区)に複合機・サーバー、大阪支店(大阪市中央区)に製造機械が設置されている場合、千代田区と大阪市中央区にそれぞれ申告書を提出することが求められます。「本社所在地に一括して申告できる」という例外はなく、資産の物理的所在地ごとに個別申告が原則です。
ただし、船舶・航空機・車両など所在地の特定が難しい資産については「大臣配分資産」「知事配分資産」として特別のルールが適用され、都道府県知事または総務大臣が課税団体を決定します。通常の事業所設備とは手続きが異なるため、該当する資産を所有する場合は各自治体への確認が必要です。
免税点150万円は市区町村ごとに判断する
地方税法第351条は、同一の者について「当該市町村の区域内におけるその者の所有に係る償却資産の課税標準となるべき額が150万円に満たない場合」は固定資産税を課さないと定めています。この免税点は、企業全体の評価額合計ではなく、各市区町村の区域内にある資産評価額の合算値に対して個別に適用されます。
具体的には、本社所在地(A市)の資産評価額が200万円、支店所在地(B市)が90万円の場合、A市では200万円が課税標準として課税対象となる一方、B市では90万円が免税点(150万円)を下回るため課税されません。企業全体では290万円の資産を保有していても、B市については非課税となります。
免税点未満でも申告書の提出は必要
免税点(150万円)に達しない場合でも、申告書の提出義務は免除されません。地方税法第383条は、1月1日現在に償却資産を所有するすべての者に対し、当該市区町村長への申告を義務付けています。課税される・されないにかかわらず、申告書は提出期限(原則1月31日)までに各市区町村へ提出することが求められます。
申告書の不提出や虚偽申告には地方税法上の罰則(過料等)が定められているため、免税点未満の少額拠点であっても申告手続きを省略することはできません。拠点数が増えるほど申告書の提出先が増え、準備・管理の負担が大きくなることから、申告作業の体制整備が重要となります。
eLTAXで複数自治体への申告を一括処理する方法
複数の市区町村への申告書を紙で個別作成・郵送する方法は、拠点数が多くなるほど膨大な手間がかかります。eLTAX(地方税ポータルシステム)を活用すると、複数自治体への申告データを一元管理し、一括で電子送信できます。
eLTAXの「複数申告書一括作成」機能とは
eLTAXが提供するPCdesk(DL版)には、「複数申告書一括作成」機能が搭載されています。この機能を使うと、事業者が保有するすべての償却資産の明細情報を一度入力するだけで、入力内容に基づいて各資産の所在市区町村(提出先)ごとの申告書が自動的に分割・生成されます。
入力した資産明細はPCdesk内に保存されるため、翌年度の申告では前年のデータを読み込んで差分(当年取得・除却資産)だけを更新する運用が可能です。拠点数や資産数が多い企業にとって、毎年の申告作業の入力工数を抑えられる仕組みとなっています。
申告データ作成の2つの方法
PCdesk(DL版)での資産明細入力には、以下の2つの方法があります。
- 手入力方式:PCdesk上の「償却資産明細登録・変更」画面から、資産の種類・取得年月・取得価額・所在市区町村などを1件ずつ登録します。資産数が少ない場合や、固定資産管理システムを持たない場合に適した方法です。
- CSV取込み方式:固定資産管理システムや会計ソフトから、eLTAXが定める「固定資産税(償却資産)申告書種類別明細書CSVレイアウト仕様書」に準拠したCSVファイルを出力し、PCdeskに取り込む方法です。資産数が多い場合や、既存システムとの連携が整っている企業に適しています。
CSV取込み方式を選択すると、固定資産管理システム側で資産情報を一括管理したうえで、申告時に必要なCSVを出力するだけで申告データが揃います。入力ミスや転記誤りを防ぎながら、複数拠点の資産情報を効率的に処理できます。
eLTAX利用開始前の事前準備(利用届出)
eLTAXを利用するには、事前に「利用届出(新規)」を行い、利用者IDを取得する必要があります。利用者IDは企業・納税者単位で1つ取得し、その1つのIDで複数の地方公共団体への申告を行います。
利用届出(新規)では主となる提出先(地方公共団体)を1つ指定します。2つ目以降の提出先は、新規届出の後に「利用届出(変更)」で追加します。拠点を新設した場合や申告先の市区町村が変わった場合も、同様に利用届出(変更)で提出先を更新することが必要です。
提出先市区町村のコード(提出先市町村コード)は、eLTAXホームページからダウンロードできます。「固定資産税(償却資産)申告書(種類別明細書)データ作成用 特定項目情報」が該当資料です。CSV取込み方式を利用する場合、固定資産管理システム側でこのコードを各資産の所在地情報に対応付けておくと、データ出力時の整合性が確保されます。
固定資産管理システムを使った複数拠点の申告効率化
拠点数が多く、資産数が数百件を超える場合、スプレッドシートや会計ソフトの付帯機能だけで複数自治体への申告を管理するには限界があります。固定資産管理システムを活用すると、以下の点で申告作業の効率化と精度向上が期待できます。
所在地別の資産管理と自動振り分け
専用システムでは、各資産に「設置場所(部門・事業所・市区町村)」を属性として登録できます。資産の異動(拠点間の移動・設置場所変更)が発生した場合も、台帳上で異動履歴を管理することで、賦課期日時点の所在地が自動的に確定します。
申告時には、「市区町村コード別の資産一覧」を出力してCSVを生成する機能を持つシステムも多く、提出先ごとの種類別明細書を手作業で仕分ける作業を省けます。異動漏れや転記誤りによる申告誤りの防止にもつながります。
前年データの繰越と差分更新
償却資産申告は毎年繰り返される定型業務です。固定資産管理システムでは、前年の台帳データを基に当年分の資産評価額(帳簿価額)を自動計算し、当年に取得した資産と除却した資産のみを追加・削除する運用が可能です。このデータを年次で繰り越す仕組みにより、毎年ゼロから入力し直す必要がなくなります。
eLTAX連携CSVの出力
eLTAXのCSV取込み方式に対応した固定資産管理システムでは、申告書作成に必要なCSVファイルをシステム内から直接出力できます。提出先市区町村コード・種類・取得年月・取得価額・前年度評価額などの必要項目が、eLTAXの定める仕様に準拠した形式で出力されます。PCdeskへの取込みまで追加の整形作業が発生しません。
また、提出先コードを自動で振り分ける機能を持つシステムでは、複数市区町村の資産データを一括出力できます。PCdesk上の「複数申告書一括作成」機能と組み合わせれば、申告データ作成から電子送信まで一連の作業を最小工数で完結できます。
複数自治体申告に対応した固定資産管理サービス比較
eLTAX連携による複数自治体への申告に対応した固定資産管理サービスを比較します。
| サービス名 | マネーフォワード クラウド固定資産 | PCAクラウド 固定資産 |
|---|---|---|
| 提供会社 | 株式会社マネーフォワード | ピー・シー・エー株式会社 |
| 提供形態 | クラウド(SaaS) | クラウド(SaaS) |
| eLTAX対応 | CSVエクスポート→PCdesk取込み | 電子申告対応(詳細は公式サイト参照) |
| 提出先市町村コード設定 | 対応(電子申告提出先情報として設定可能) | 電子申告連携の一環として対応 |
| 複数台帳管理 | 対応(会計用・税務用の並行管理) | 対応 |
| 月額費用 | 要問い合わせ(非公開) | 通常版 13,860円〜(税込・単体利用時) |
| 無料トライアル | 公式料金ページに記載なし | 2ヶ月無料体験あり |
| カタログ掲載 | 掲載中(ミーティング予約) | 非掲載(競合サービス) |
| 詳細情報 | ミーティングを予約する | 公式サイト |
上記はeLTAX連携を中心に比較した抜粋です。各サービスの料金・機能詳細については、以下の親ピラー記事で固定資産管理システム全体を比較しています。
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マネーフォワード クラウド固定資産

マネーフォワード クラウド固定資産(株式会社マネーフォワード)は、固定資産台帳管理・減価償却計算・法人税別表16出力・償却資産申告書出力をクラウドで一元管理するサービスです。複数自治体への申告では、マスタ上で「電子申告提出先情報」として提出先市町村コードを資産ごとに設定できます。eLTAX対応ソフト「PCdesk」に読み込み可能なCSV形式でのエクスポートにも対応しています。
会計用台帳と税務用台帳を並行管理できる設計で、用途ごとに異なる減価償却基準を使い分けるニーズにも対応しています。マネーフォワード クラウド会計PlusとのAPI連携により、1クリックで仕訳連携を行うことも可能です。
導入支援はセルフプラン(eラーニングを活用した自社設定)とサクセスプラン(専任担当者による伴走)の2種類が用意されています。料金は公開されておらず、ミーティング予約・問い合わせ経由での確認が必要です。
PCAクラウド 固定資産

PCAクラウド 固定資産(ピー・シー・エー株式会社)は、減価償却計算・リース資産管理・資産棚卸・償却資産税の電子申告までを一元管理するクラウド型固定資産管理ソフトです。PCAクラウドシリーズ全体で25,000法人超の利用実績を持ち、減損処理・資産除去債務などの会計基準にも対応しています。
通常版のほかに中堅企業グループ向けの「hyper版」があり、hyper版ではグループ企業管理・セグメント管理・資産棚卸機能が追加・強化されます。2027年4月施行の新リース会計基準への対応機能は2026年秋にリリース予定で、追加費用なしで最新版へのバージョンアップが提供される方針です(公式発表)。2ヶ月間の無料体験が用意されており、機能検証を進めながら導入を検討することが可能です。
月額費用:通常版 13,860円〜(税込、単体利用時。初期費用および導入関連費用は別途)
まとめ
複数の市区町村に事業所や工場を持つ企業の償却資産税申告は、以下の基本ルールのもとで進める必要があります。
- 申告先は賦課期日(1月1日)現在に資産が所在する市区町村ごとに個別に提出する
- 免税点(150万円)は市区町村ごとに判断し、ある市区町村での課税標準額が150万円未満なら非課税(ただし申告書提出義務は残る)
- eLTAXのPCdesk「複数申告書一括作成」機能を活用すると、資産明細を一括入力して提出先ごとの申告書を自動生成できる
- 固定資産管理システムのCSVエクスポート機能とeLTAXのCSV取込み方式を組み合わせると、入力工数と転記ミスを削減できる
拠点数・資産数の増加にともなって複数自治体への申告作業の負担が増す企業では、固定資産管理システムの導入によって申告フローを整備することが、持続可能な運用体制につながります。各サービスの機能・料金の詳細は、資料請求やミーティングを通じて確認されることをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
複数の市区町村に拠点があっても、本社所在地にまとめて申告できますか?
まとめて申告することはできません。地方税法の定めにより、償却資産税は「資産が所在する市区町村」が課税主体となるため、各資産の物理的所在地の市区町村ごとに個別の申告書を提出する必要があります。ただし、eLTAXの「複数申告書一括作成」機能を使えば、資産明細を一度入力するだけで提出先ごとの申告書を自動分割・生成することが可能です。
拠点の資産が免税点(150万円)未満でも申告書の提出は必要ですか?
はい、必要です。地方税法第383条により、1月1日現在に償却資産を所有するすべての者は、当該市区町村長への申告が義務付けられています。課税標準額が免税点を下回り課税されない場合でも、申告書の提出義務は免除されません。提出期限(原則1月31日)までに、対象市区町村へ申告書を提出してください。
eLTAXの利用開始に必要な手続きを教えてください。
eLTAXを利用するには、まずPCdesk(WEB版またはDL版)から「利用届出(新規)」を行い、利用者IDを取得します。利用者IDは企業・納税者単位で1つ取得し、この1つのIDで複数の地方公共団体への申告を行います。
利用届出(新規)では主となる提出先を1つ指定し、2つ目以降の提出先は「利用届出(変更)」で追加します。eLTAXのホームページ(eltax.lta.go.jp)から手続きガイドをダウンロードして事前準備を進めることをおすすめします。
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